京都地方裁判所 昭和50年(わ)1139号 判決 1978年1月13日
本籍
京都府福知山市字内記二七番地
住居
京都市伏見区深草大亀谷大山町九五番地の二
元学習塾経営
森脇政尾
明治四〇年四月三日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は審理の結果つぎのとおり判決する。
検察官 宮下準二出席
主文
被告人を徴役八月及び罰金一、〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から二年間右徴役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、京都市伏見区道阿弥町一四九番地の三ほか六か所において、柊学園の名称で、小学生を対象とする学習塾を営んでいたものであるが、所得税を免れようと企て、
第一 昭和四七年分の総所得金額が二一、九七九、七〇三円で、これに対する所得税額が九、三三九、八〇〇円であるのにかかわらず、授業料等収入金の一部を仮名の貸付信託等にするなどの行為により所得を秘匿したうえ、昭和四八年三月一三日宇治市大久保町所在宇治税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が八三二、〇〇〇円で、これに対する所得税額が三〇、六〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税九、三〇九、二〇〇円を免れ
第二 昭和四八年分の総所得金額が三二、三五一、四八一円で、これに対する所得税額が一五、一二一、一〇〇円であるのにかかわらず、授業料等収入金の一部を仮名の貸付信託等にするとともに、自己が他人の経営にかかる学習塾事業における被雇用者であり、右事業についての自己の収入は、他人から受ける給与収入のみであるかのように仮装するどの行為により所得を秘匿したうえ、昭和四九年三月一五日前記宇治税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一、五九六、四一五円で、これに対する所得税額が一二三、〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税一四、九九八、一〇〇円を免れ
第三 昭和四九年分の総所得金額が四九、九九二、四〇二円で、これに対する所得税額が二三、九一一、三〇〇円であるのにかかわらず、前第二と同様の行為により所得を秘匿したうえ、昭和五〇年三月一五日前記宇治税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一、七六八、五〇〇円で、これに対する所得税額が一二八、一〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税二三、七八三、二〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実につき
一、被告人に対する大蔵事務官の各質問てん末書
一、被告人の検察官に対する供述調書
一、第三回並びに第四回公判調書中の証人小原外夫の各供述記載
一、大蔵事務官作成の各査察調査書(検甲第六号、第一〇ないし一二号、第一四、一五号、第一七ないし二二号、第二六号)
一、被告人作成の各確認書と題する書面(検甲第七、八号、第一三号、第一六号、第二九号)
一、大蔵事務官作成の確認書と題する各書面(検甲第五号、第九号、第二三号)
一、大蔵事務官作成の証明書と題する各書面(所得税確定申告書謄本、検甲第二ないし四号)
一、河本博作成の確認書と題する各書面
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項、一二〇条一項三号に該当するので、所定刑中懲役刑と罰金刑を併科する刑によることとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については、同法四八条一項によりこれを右懲役刑と併科することとし、同条二項により判示各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役八月及び罰金一、〇〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、後記情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右の懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部これを被告人に負担させることとする。
(量刑事情)
弁護人は、被告人には所得税をほ脱しょうとする犯意はなかった旨主張するけれども、本件各証拠及びこれによって認められる諸事実を総合すれば、被告人が判示のように本件所得税ほ脱の犯意を有していたことは明らかであって縷々説明を要しないところであり、本件はほ脱税額も相当多額であり、学習塾という一つの教育の場で、いわゆる塾ブームに便乗してなされたものである点等において刑責は重いといわねばならないが、他方、右のように被告人の犯意は否定できないけれども、被告人は税、会計に関する知識にうとく、被告人が積極的に小原外夫に指示して実行させたわけではなく、むしろ本件の具体的手段、方法、金額等まで右小原が進んで考え実行した事案ということができること、本件ほ脱額及び重加算税等はすべて納付ずみであってすでに実害のない状態にあること、被告人は現在経営者としての地位を他に譲り、謹慎の態度を示していること、また四〇年にわたって教育者の地位にあり、退職後も子弟の教育にたずさわってきた被告が七〇歳になって末節を汚し、自ら慙愧にたえないとのべている心情は十分察することができ、本件起訴によって、すでに相当な社会的経済的な制裁を受けているということができること等を考慮して主文のとおり刑の算定をした。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 河上元康)